海洋底の拡がり始めは必ずしも熱くない
国立研究開発法人産業技術総合研究所
更新日時:10月21日 14時00分

地殻熱流量と地下構造から判明した新たな地殻拡大メカニズム

ポイント

・ 熱が少なく冷たい状態でも、広範囲に分布する正断層によってリフトという地殻の凸凹地形が作られていくことを発見

・ 広域的なマグマ供給の証拠が乏しい条件下でも海洋底拡大が進行する可能性を提示

・ 東シナ海における地震リスク評価や防災計画に重要な知見を提供

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610198180-O1-bO17T9ex】

 

概 要 

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門 大坪 誠 研究部門付らの研究チームは、沖縄トラフ南部で高精度の反射法地震波探査、地殻熱流量測定などを行い、広域的なマグマ供給の証拠が限られた状態で海洋底拡大が進行する可能性を示しました。

 

背弧海盆(はいこかいぼん)は、プレートが沈み込む場所の近くで地殻が引っ張られて割れ、海底が拡大することで形成される海の盆地です。このような海洋底が拡大した背弧海盆は日本海をはじめ、地球上に10カ所ほどあり、地下深くから上がってくるマグマの熱によって地殻の強度が下がることでその形成が進行すると考えられています。しかし、海洋底拡大の初期段階において、どのような条件で地殻の凸凹地形であるリフトができるのかはまだよくわかっていません。

 

東シナ海の海底に広がる細長いくぼ地である沖縄トラフは、世界でも数カ所しかない、まさに海洋底が拡大する初期段階にある場所の一つです。今回、研究チームは沖縄トラフ南部の八重山海底地溝と与那国海底地溝でさまざまな海洋調査を実施しました。その結果、海底の地殻熱流量と海底下の断面図より、熱が少なく冷たい状態でも正断層が広範囲に広がることで地殻の凸凹地形が作られることを発見しました。また、局所的なマグマ活動の可能性はあるものの、広域的には熱流量の小さい条件下で、正断層の発達によって海洋底拡大が進行する可能性を示しました。本成果は、海洋地質学および地球物理学分野におけるプレート沈み込み帯での地殻形成プロセスの理解を進めるものであり、深海科学掘削の実施など今後のさらなる研究が期待されます。

 

なお、この成果の詳細は、2026年10月21日に「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されます。

 

下線部は【用語解説】参照

 

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。

正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ

( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261021/pr20261021.html )をご覧ください。

 

研究の社会的背景

プレートが沈み込む場所の近くでは、地殻が引っ張られて割れて拡大することで、周囲と比べて水深の深い背弧海盆という盆地が形成されます。背弧海盆の拡大が進むと、より広い海盆へと発達し、海域が拡大することもあります。日本列島は、約1800万年前に日本海の海洋底の拡大が始まり、大陸から分離しました。日本海の海底には、海山などのマグマが噴出してできた地形や、海底拡大の際に形成された正断層など、背弧海盆拡大の痕跡があります。背弧海盆における海底拡大は、地下深くから上昇するマグマの熱によって地殻の強度が低下し、割れやすくなることで進行すると考えられていますが、背弧海盆が拡大を始める初期の段階で、どのように地殻が薄くなっていくのか、未解明の部分が多く、議論が続いています。

 

沖縄トラフは、日本の南西に位置する東シナ海の海底に広がる、長さ約1,500 キロメートル、幅約200 キロメートル、水深約2,000 メートルの地溝と呼ばれる細長いくぼ地です。そこでは、地下のプレートが引っ張られ、正断層を伴って地殻の凸凹地形であるリフトが形成されつつあり、年間数センチメートルの速度で海底が拡大しています。沖縄トラフは海底の拡大が進行している、世界で数カ所しかない初期状態の背弧海盆の一つと考えられています。そのため、背弧海盆においてどのように地殻が薄くなっていくのか、また海底の拡大が進む要因は何かを検討するための貴重なフィールドです。

 

研究の経緯

産総研らの研究チームは、これまで沖縄トラフ周辺海域において海洋調査を実施し、地下のマグマや断層の分布についての調査を進めてきました[1]。今回、海底のリフトを詳しく調べるため、2023年12月から2024年1月にかけて、学術研究船「白鳳丸」を用いて、沖縄トラフ南部の八重山海底地溝と与那国海底地溝において、地形探査、高精度の反射法地震波探査、地殻熱流量測定、地磁気観測などを組み合わせた調査を実施しました。

 

なお、本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「Slow-to-Fast地震学(2021~2025年度)」による支援を受けています。

 

研究の内容

海洋調査の結果、八重山海底地溝と与那国海底地溝では、50 mW/m2程度(1平方メートルあたり50ミリワット程度)という非常に小さい地殻熱流量であることが示されました(図1)。さらに、与那国海底地溝では、広範囲な正断層の存在が確認されましたが、マグマによる加熱の痕跡は見つかりませんでした。八重山海底地溝でも同様に広範囲な正断層が確認され、さらに地殻内部に小規模な貫入体が確認されましたが、全体として地殻の熱流量は小さく、「冷たい地殻」であることが示されました(図2)。また、通常はマグマ活動とともに現れる顕著な地磁気異常もほとんど確認されなかったことから、今回の調査エリアでは広域的なマグマ活動の痕跡が乏しいにもかかわらず、地殻が薄くなっている状況が明らかになりました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610198180-O2-03m8XsF6】

 

反射法地震波探査によって示された2つの海底地溝での正断層を含む地下構造によると、小さな正断層が広範囲に認められました。これらの正断層によって地殻は引き伸ばされて凸凹地形が多く形成され、地殻が徐々に広がることが示されました(図2)。特に与那国海底地溝では、広域的なマグマ供給の証拠が限られた状態で、2つの海底地溝での海洋底の底面が下に凸となっているなど、数キロメートルにわたり地殻が薄くなっていました。このことは、従来考えられていたマグマの熱によるリフト形成メカニズムの理論を再考する必要性を示しています。

 

本研究では、沖縄トラフ南部において、広域的なマグマ活動の証拠が乏しい状態でも、地殻が引き裂かれようとしていることが確認されました。この発見は、従来の沈み込み帯でのリフト形成の考え方に対する新たな視点を提供するだけでなく、地球の動きや地震の仕組みを理解するうえで重要です。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202610198180-O3-7i9Kl2lc】

 

研究の社会的意義

これまでの研究で、地震の規模と震源域の地熱環境には相関があることがわかっています。熱によって軟化した地殻においては、地震時にすべる断層の面積が小さくなり、地殻熱流量の大きい場所では規模が大きい地震は起こりにくい傾向にあります。逆に、地殻熱流量が小さい固い地殻では、ひずみをより大きな断層面に蓄積してすべることができるため、規模の大きな地震が起こることがあります。今回の調査で沖縄トラフ南部は、全体的に地殻熱流量が小さいことがわかりました。先行研究によると、沖縄トラフ南部と似た地熱環境ではマグニチュード7を超える規模の地震が発生しています。つまり、沖縄トラフ南部においてもマグニチュード7クラスの地震が発生する可能性は否定できません。この結果は、東シナ海における地震リスク評価や防災計画にも重要な知見となります。

 

今後の予定

今後は地球深部探査船「ちきゅう」により、沖縄トラフ南部でのより深い地中の地殻熱流量の測定を目的とした調査航海を実施する予定です。例えば、海底面から深さ100 メートル程度までの地殻熱流量の測定を行います。断層の広がりや海底面下の地殻熱流量を精度良く明らかにすることで、地震のマグニチュードの評価をはじめとする地震リスク評価に役立ちます。

 

また、将来的には、「ちきゅう」による国際海洋科学掘削計画(IODP3)で、沖縄トラフ南部域での海底面下の貫入体やマグマ活動の実態を直接確認することを目指します。

 

論文情報

掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science

論文タイトル:Distributed normal faulting and relatively low heat flow conditions during early rifting in the southern Okinawa Trough

著者:Makoto Otsubo, Masataka Kinoshita, Minoru Ikehara, Ryuta Arai, Ayanori Misawa, Hiroaki Koge, Katsura Kameo, Chiori Tamura, Ryoji Toda, Stephen P. Obrochta, Takanori Kagoshima, Tomohiro Toki, Daisuke Kuwano, Seiya Fujishima, Akane Yamamoto, Natsuki Nomura, Aya Osanai, Keita Kono, Issui Ikuma, Chika Onai, Yusei Miyamoto, Yuka Taira, Yu Miyagi, Soma Sato, Michelle M. Nishimoto, Yukihiko Nakano, Hikaru Iwamaru, Yu Suzuki

DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-026-00854-3

 

研究者情報

産総研

活断層・火山研究部門 大坪 誠

地質情報研究部門 三澤文慶、高下裕章

 

東京大学地震研究所

木下正高

 

高知大学海洋コア国際研究所

池原 実

 

海洋研究開発機構

地震火山研究部門 新井隆太

 

東京大学大気海洋研究所

亀尾 桂、田村千織、戸田亮二

 

秋田大学

Stephen P. Obrochta、佐藤蒼真(研究当時)

 

富山大学

鹿児島 渉悟

 

琉球大学

土岐知弘、平良優佳、宮城 裕

 

京都大学

桑野太輔、藤島誠也

 

日本大学

大学院総合基礎科学研究科 山本朱音(研究当時)

 

高知大学

野村夏希、小山内 彩、河野敬太、井熊一翠

 

千葉大学

尾内千花、宮本祐成(研究当時)

 

日本女子大学

西本桃子

 

株式会社マリン・ワーク・ジャパン

中野幸彦

 

日本海洋事業株式会社

井和丸 光

 

MOLマリン&エンジニアリング株式会社

鈴木由布

 

参考情報

[1] 大坪ほか,IODP掘削に向けた沖縄トラフでの海洋地球科学総合観測:白鳳丸KH-21-3航海速報,日本地球惑星科学連合2021年大会など

 

用語解説

反射法地震波探査

ここでは海面付近からエアガンと呼ばれる機材により人工的に振動(地震波)を送り、地下の異なる地層で反射して戻ってくる波を観測して地下の構造を調べる方法。地下の様子を病院のエコー検査のように画像化することができる。

 

地殻熱流量測定

温度計を海底に差して地中の温度を深さごとに測り、地球の内部から地表に向かってどのくらいの熱が流れているかを調べる方法。このデータにより、地下の温度分布や火山活動などを理解できる。

 

リフト

地殻が引き裂かれるように伸びて作られる細長い凹地状の構造であり、地溝とも呼ばれる。地殻が薄くなり沈降することで作られる。

 

正断層

地下の岩盤が引っ張られる力によって割れ目(断層)ができ、その片方がずり落ちるようにずれる事象。正断層によって大地が上下に動くことで、山や谷などの地形が作られる。

 

マグニチュード

地震の「規模」や「エネルギーの大きさ」を示す値。マグニチュードが大きくなると一般的には地震を起こす断層面の広さは大きくなる。マグニチュードが2大きくなると、地震のエネルギーは約1000倍大きくなり、揺れの範囲や被害の大きさにも大きく影響する。

 

 

プレスリリースURL

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261021/pr20261021.html