遺伝病の重症さを決める遺伝因子の存在を解明
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
更新日時:5月28日 14時00分
12年にわたる観察による成果
2026年5月28日14時配信
NIBN(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)
2026年5月28日
研究成果のポイント
◇網膜の遺伝性難病において、病気の重症度を変化させる遺伝的な因子の存在を証明。
◇遺伝病は、同じ遺伝子異常を持っている患者でも重症度が人により違うことが知られており、環境や遺伝的な背景の違いによるものと考えられていたが、実際に遺伝的な因子の存在を証明することは特殊な疾患以外困難だった。
◇今回、遺伝病が発症する遺伝子の変異を持っていても、他の要素によりその症状を軽減できる可能性が判明し、多くの遺伝子がかかわる網膜色素変性症のような疾患の治療への応用が期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の崔総(Cong Cui)さん(博士後期課程)、辻川元一教授(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 招聘プロジェクトリーダー(兼任))らの研究グループは、広島大学 大学院統合生命科学研究科 大森義裕教授と共同で、遺伝性難病である網膜色素変性症※1の原因について遺伝子変異(病因遺伝子)の他に、症状の重症度を調整する二つの因子の存在を明らかにしました。
一つは病因遺伝子のそば(cis)にあり、病気の遺伝子の発現の量を減らすことで症状を改善していました。もう一つは病因遺伝子と違った位置(trans)にあり、これにより軽症化していた病態が重症になることが分かりました。このように一つの遺伝病の病因遺伝子変異に対してcisとtransの異なる遺伝因子の存在があることを初めてモデル動物において証明しました。
これまで、このような遺伝病の重症度を左右するような遺伝因子(修飾因子)の存在は、概念としては理解されていたものの、特殊な例を除いて証明されていませんでした。
今回、研究グループは、ヒト網膜色素変性症のモデル魚を用いることにより、cisとtransの二つの修飾因子が存在することを解明しました。これにより、このような修飾因子を使う事で遺伝病を含めた疾患の重症度を予想し、コントロールすることの基礎を築き上げました。
本研究成果により、遺伝病においての症状・重症度・予後を左右するような遺伝因子の発見や治療への応用が期待されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279780-O1-YU6m3Zq6】
図:病気の原因遺伝子とは別に症状を変える遺伝因子がある
本研究成果は、独国科学誌「Advanced Science」に、4月10日(金)に公開されています。
辻川教授のコメント
本研究は一つの遺伝子異常を持ったモデルの魚を12年にわたって詳細に観察することによって、今まで知られていなかった遺伝修飾因子の存在を示したものです。継続することときちっと観察することの重要性を改めて認識させてくれた研究になります。
研究の背景
遺伝病は、一つの遺伝子の異常で病気が発症してしまう疾患です。そのため、同じ家系(例えば兄弟)の患者は、同じ遺伝子異常を持っていることになります。ところが、多くの疾患では、この患者の間でも重症度が大きく違うことが知られていました。網膜色素変性症はそのような眼科の代表的な遺伝病です。
これまで、重症度の違いは環境や遺伝の差によって生じると考えられてきました。例えば光の暴露などの環境要因については、実験動物を用いた研究が進められてきましたが、遺伝の影響については概念的な議論にとどまり、その存在を証明することは困難でした。
研究の内容
研究グループでは、12年にわたってヒトの網膜色素変性症のゼブラフィッシュを用いたモデル動物の家系を検討しました。その結果、遺伝子の変異が同じであるにもかかわらず、症状がきわめて軽い家系の発生を発見しました。これは、原因となる遺伝子変異の近く(cis)にある3塩基の違いによって、軽症の家系が発生していたためです。
さらに、この軽症化した家系を野生型の正常の魚と何度かかけ合わせたところ、子供の半数が再び重症化する家系があることを発見しました。この重症化した魚の子孫はそれ以降も半分は重症化し、半分は軽症のままでした。これは、この病因遺伝子から離れた位置(trans)にある遺伝因子の存在を強く示すものです。このような一つの遺伝子変異による遺伝病の発症において、重症度を変化させるcisおよびtransの因子が同時に同定されたことは世界で初めての成果です。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、網膜色素変性症以外の遺伝病においても症状・重症度・予後を左右するような遺伝因子の発見が期待されます。これにより、このような重症度の予想ができるようになる可能性があるだけでなく、予後をコントロールできる可能性が考えられます。特に、原因遺伝子が数多くある網膜色素変性症においては、変異にかかわらず、軽症化するようなtransの因子が存在する可能性があり、治療への応用が期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年4月10日(金)に独国科学誌「Advanced Science」(オンライン)に掲載されています。
タイトル:“Cis‐ and trans‐Regulatory Factors Independently Shape Phenotypic Heterogeneity of Retinitis Pigmentosa”
著者名:Cong Cui, Kotone Nakagawa, Takumi Tateno, Ayaka Dan, Dexin Meng, Yoshihiro Omori, Soma Tomihara, Suzuri Okamoto, Shigeru Sato, Motokazu Tsujikawa
なお、本研究は、AMED革新的先端研究開発支援事業(課題番号 JP24gm1510010h)、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号 JP25K02794, JP24K22167, JP23K21480)の一環として行われ、広島大学 大学院統合生命科学研究科 大森義裕教授の協力を得て行われました。
用語説明
※1 網膜色素変性症
網膜色素変性症は、眼の内側にあり、カメラでいうフィルムの役割を果たす網膜という組織に異常をきたす、遺伝性、進行性の病気です。国の指定難病であり4000人~8000人に一人が発症するといわれており、比較的頻度の高い疾患です。原因遺伝子が300以上存在しており、患者により重症、軽症の差が大きいことも特徴です。
SDGs目標
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279780-O2-ER5w9oU4】
参考URL
辻川元一教授 研究者総覧
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279780-O3-xNH0r819】

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