最先端材料科学研究:パーキンソン病に関連したタンパク質の凝集阻止の可能性
国立研究開発法人物質・材料研究機構
更新日時:5月20日 11時34分
グラフェン量子ドット、タンパク質の折りたたみを標的とする新たな治療法へ
Science and Technology of Advanced Materials
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)内のSTAM編集室では、NIMSとスイスのEmpaが刊行を支援するオープンアクセスジャーナル「Science and Technology of Advanced Materials」誌(https://www.tandfonline.com/stam)から論文を厳選して紹介しています。
2026年5月8日に発表された論文の解説を、2026年5月20日に配信いたします。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605199285-O1-S4aatw0v】
図の説明:パーキンソン病や多系統萎縮症などの神経変性疾患に対し、ナノスケールの炭素粒子を用いた画期的な治療法の可能性が見えてきた。
神経変性疾患の多くでは、異常な折りたたみ構造を有するタンパク質の蓄積が疾患の発症や進行に関わる。人工的に設計されたナノマテリアルは、こうしたタンパク質の異常な凝集を抑えるという、神経変性疾患の治療法探索における新たな方向性を示す。
α-シヌクレインは生理的にはシナプス前終末に存在し、シナプスの機能維持に必須とされる。しかし、シヌクレイノパチー(パーキンソン病や多系統萎縮症)では、α-シヌクレインが異常に凝集し、細胞内に蓄積する過程で機能障害や神経細胞死を引き起こす。現在の治療法は症状を緩和するにとどまり、異常α-シヌクレインの凝集そのものを阻止する根本的治療法はない。そのため、凝集体の形成を阻止する、あるいは脳から除去する新たな治療法の開発がこれまで求められていた。
今回、ポーランド・ポズナン市にあるPoznań University of Medical Sciencesのクジャウスカ教授は弘前大学大学院医学研究科脳神経病理学講座 若林孝一教授(当時)、三木康生助教らと国際共同研究チームを作り、炭素ナノ粒子であるグラフェン量子ドット(Graphene Quantum Dot: GQD)がα-シヌクレインの凝集を抑制することを見出した。この研究成果は、学術誌『Science and Technology of Advanced Materials (STAM)』に掲載され、GQDが異常α-シヌクレインと相互作用し、神経変性をおこす異常α-シヌクレインの凝集を抑制する仕組みを明らかにした。
「この研究成果は、神経変性疾患に対する治療法探求において有望かつ新たな方向性を示唆しています。GQDの臨床応用にはまだ長い道のりがありますが、本研究で得られた知見はさらなる研究の必要性を裏付けるものです。」とクジャウスカ教授は述べる。今回の研究では、複数の研究手法を組み合わせてGQDの有効性が示された。例えば、多系統萎縮症モデルマウスの鼻腔内にGQDを投与したところ、GQDは脳内の異常α-シヌクレインの凝集を有意に減らした。また、細胞内分解機構の一つであるオートファジーの活性化も確認された。さらに、高容量では細胞ストレスや免疫反応が見られたものの、治療域においては良好な安全性を示した。ナノ材料は長期使用に関する安全性が問題となることがあるが、この結果は重要である。
懸濁液中でGQDが凝集を阻害する方法など、課題は残っている。しかしクジャウスカ教授は、「GQDは有用な研究ツールとなり得ます。GQDの安全性や特性を最適化することで、シヌクレイノパチーのみならず、異常タンパク質の蓄積を特徴とする他の神経変性疾患においても、GQDの使用は新たな治療戦略となるはずです。」と述べた。
論文情報
タイトル:Characterization and evaluation of the ability of graphene quantum dots to affect α-synuclein aggregation in synucleinopathy models
著者:Tuba Oz, Anna Alwani, Agnieszka Kamińska, Barbara Jachimska, Makoto Timmon Tanaka, Yasuo Miki, Koichi Wakabayashi, Katarzyna Maziarz, Sheetal Kaushik Bhardwaj, Ajeet Kaushik, Małgorzata Figiel, Piotr Chmielarz* & Małgorzata Kujawska**
*Department of Brain Biochemistry, Maj Institute of Pharmacology, Polish Academy ofSciences, Smetna Street 12, 31-343 Kraków, Poland (E-mail: Chmiel [at] if-pan.krakow.pl) **Department of Toxicology, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka Street, 60-806 Poznań, Poland (E-mail: Kujawska [at] ump.edu.pl)
引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 27 (2026) 2662693
最終版公開日:2026年5月8日
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2026.2662693(オープンアクセス)
本件に関する問い合わせ: stam_info[at]nims.go.jp

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