高い幸福感が全死因死亡リスクの低下に関連
早稲田大学
更新日時:1月28日 13時00分

2026年1月28日
青森県立保健大学
早稲田大学

高い幸福感が全死因死亡リスクの低下に関連

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202601273130/_prw_PT1fl_6pXifT1N.png

青森県立保健大学健康科学部の安永 明智(やすなが あきとも)教授と早稲田大学スポーツ科学学術院岡 浩一朗(おか こういちろう)教授らの研究グループは、日本の成人を対象にした前向きコホート研究※1において、ウェルビーイングの一側面である幸福感※2が高いことは全死因死亡率※3の低下と関連することを明らかにしました。この関連は、年齢、性別、社会経済的要因(教育歴、婚姻状況、経済状況)、および健康状態(BMI、身体機能)を統計学的に調整した後も独立して認められました。

本研究成果は、米国心理学会(American Psychological Association:APA)が発行する『Health Psychology』(論文名:Association of State Happiness with Mortality: Evidence from a Prospective Cohort Study in Japan)にて、2026年1月19日(月曜日)にオンラインで掲載されました。

 

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

幸福感はウェルビーイングの代表的な側面であり、健康の良し悪しを規定する重要な要因としてポジティブ心理学※4の研究領域では認識されており、公衆衛生上の主要な介入目標でもあります。先行研究では、幸福感を含むポジティブな心理的健康は、健康長寿と関連があることが指摘されてきました。例えば、一般の人々を対象とした縦断研究のメタアナリシスでは、高い幸福感と死亡率の低下が関連することが報告されています。また、幸福感を含むポジティブな心理的健康が、健康な人々と病気を持つ人々の両方において死亡率の低下をもたらすことが、システマティックレビューにより示されています。

しかしながら、幸福感が健康長寿の直接的な保護因子になりうるかについては慎重な意見もあります。健康状態の悪化が幸福感の低下につながるという逆因果関係や、低い幸福感が喫煙や過度の飲酒、運動不足といった不健康な生活習慣につながり、それが死亡率に影響を与える可能性も指摘されています。

そのため、先行研究を概観していくと幸福感と死亡率の関連についての研究結果は一貫していません。たとえば、英国の女性を対象とした前向きコホート研究では、自己評価による健康状態や疾患、社会人口統計学的要因、ライフスタイル要因を調整した後では、幸福感と死亡率に有意な関連は認められませんでした。一方、シンガポールで実施された縦断研究では、同様の調整を行った後でも、幸福感と死亡率に有意な関連があることが報告されています。これらの相反する結果は、文化的背景や環境の差異を考慮したさらなる研究の必要性を示唆しています。

 

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究は、日本の成人における幸福感と全死因死亡率の関連を、健康状態や社会人口統計学的要因の影響を考慮した上で明らかにすることを目的としました。これまで幸福感と死亡率の関連については、欧米諸国で実施された研究からの知見が中心でしたが、本研究はアジア、特に欧米諸国とは文化や環境が大きく異なる日本から貴重なデータを提供し、この領域の研究ギャップを埋めるものです。

2016年10月から2023年10月までの追跡期間中、3,187人の研究参加者のうち277人が死亡しました。年齢と性別で調整した分析(図:モデル1)では、ベースライン時に「不幸である」と報告した参加者は、「幸福である」と報告した参加者に比べて、全死因死亡のリスクが約2.7倍高いことが示されました(オッズ比※5:2.69、95%信頼区間:1.63-4.44)。さらに、年齢、性別に加えて、教育歴、婚姻状況、経済状況といった社会経済的要因、BMIや身体機能といった健康状態を調整した分析(図:モデル3)においても、「不幸である」と報告した参加者の死亡のリスクは依然として統計学的に有意に高く(オッズ比:1.85、95%信頼区間:1.09-3.16)、この関連は変わりませんでした。また、追跡開始から1年以内に死亡した参加者を除外した感度分析においても、同様の傾向が確認されました。

本研究は、アジアの人々を対象にした幸福感と全死因死亡率の関連について、これまで不足していた知見を補完するものです。社会経済的要因や健康状態を考慮した後も、幸福感が死亡率と独立して関連していることを明らかにしました。この結果は、ウェルビーイングの一側面である幸福感が長期的な健康、特に長寿に影響を与える重要な要因である可能性を示唆しています。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202601273130-O2-4oDHZYSA】 図 日本の成人における幸福感と全死因死亡率の関連

 

(3) 研究の波及効果や社会的影響

本研究の結果は、高い幸福感が日本の成人における全死因死亡率の低下と関連していることを示しており、幸福感が長期的な健康の重要な予測指標になる可能性を示唆しています。この知見は、今後の公衆衛生に関する取り組みや健康政策の立案に対して有益な示唆を与えるものになることが期待されます。

幸福感などのポジティブな心理的健康を高めるための介入は、メンタルヘルスの維持・増進に寄与するだけではなく、最終的に死亡リスクの低下を含む長期的な健康の改善につながる可能性があり、今後の健康・福祉政策や健康づくりプログラムの設計において重要な視点となるでしょう。

 

(4) 今後の課題

本研究の課題として、以下の点が挙げられます。本研究の分析には、健康状態の評価が自己申告によるBMIと身体機能に限定されており、客観的または臨床的に検証された指標(例:医師による診断、バイオマーカーなど)が含まれていません。今後は、医師(医療者)によって診断された疾患・疾病やバイオマーカーなど、より客観的かつ臨床的に裏付けられた健康指標を分析に取り入れることが求められます。また、追跡期間中の幸福感の変化については評価されておらず、幸福感が時間とともにどのように変化し、それが死亡率にどのような影響を及ぼすのかは明らかではありません。今後は、幸福感の時間的な動的変化を捉える視点を取り入れることが課題となります。

 

(5) 研究者のコメント

■青森県立保健大学健康科学部 安永 明智 教授

本研究の結果から、幸福感が高い人は全死因死亡率が低いことが明らかになりました。この関連は、社会人口統計学的要因や健康状態を調整した後も維持されました。

この結果は、幸福感が単なる心の状態にとどまらず、長期的な健康、特に寿命に影響を与える重要な要因となる可能性を示唆しています。したがって、幸福感を高めるような介入(例えば、ポジティブ心理学に基づくプログラムや、社会的つながりを促進する活動など)は、個人の寿命を延ばし、公衆衛生の改善につながるでしょう。

■早稲田大学スポーツ科学学術院 岡 浩一朗 教授

ウェルビーイングの一側面である幸福感を高く維持することが死亡率の低さと有意に関連することについて、欧米諸国とは文化や環境が大きく異なる日本人のデータを用いて明らかにした貴重な知見になります。本研究では農山漁村地域に住む成人が対象であるため、本研究の結果が都市部の成人に一般化できるかどうかは分かりませんが、わが国における公衆衛生上の大目標である健康寿命の延伸に関わって、幸福感(ウェルビーイングの充実)に着目した取り組みや制度・政策を立案していく際に有益な情報になることは間違いありません。

 

(6) 用語解説

※1 前向きコホート研究

ある特定の要因を持つ集団と持たない集団を一定期間追跡し、それぞれの集団で疾患の発生率や死亡率などがどう変化するかを比較する研究です。これにより要因と結果の因果関係を長期的に評価できます。

※2 幸福感

喜びや満足感、ポジティブな感情といった主観的な心の状態を指します。個人的な充足感や人生の目的意識なども含む多次元的な概念であり、ウェルビーイングの一側面です。

※3 全死因死亡率

特定の原因に限定せず、ある期間内に集団全体で死亡する割合を示す指標です。疫学や公衆衛生学の研究分野で、健康状態や介入の効果を評価するために広く用いられています。

※4 ポジティブ心理学

人間の良い側面に焦点を当て、持続的な幸福や充実した人生(ウェルビーイング)を科学的に研究する心理学です。従来の「マイナスをゼロにする」のではなく、「ゼロからプラスにする」ことを目指します。

※5 オッズ比

ある事象の起こりやすさを2つの群で比較する統計指標です。具体的には、それぞれの群で事象が「起こるオッズ」(起こる確率と起こらない確率の比)を算出し、それらのオッズが何倍違うかを示します。

 

(7) 論文情報

雑誌名:Health Psychology

論文名:Association of State Happiness with Mortality: Evidence from a Prospective Cohort Study in Japan

執筆者名(所属機関名):

安永 明智(青森県立保健大学健康科学部) 

柴田 愛(筑波大学体育系)

細川 佳能(東洋大学健康スポーツ科学部)

モハメドジャヴァッド クサリ(北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科)

宮脇 梨奈(明治大学文学部)

荒木 邦子(早稲田大学スポーツ科学学術院)

石井 香織(早稲田大学スポーツ科学学術院)

岡 浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院)

掲載日時(現地時間):2026年1月19日

掲載日時(日本時間):2026年1月19日

(オンライン掲載)

掲載URL: https://psycnet.apa.org/fulltext/2027-16336-001.html

DOI: https://doi.org/10.1037/hea0001571

 

(8) 研究助成

研究費名:厚生労働科学研究費補助金 (循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業)(22FA1004)

研究課題名:健康づくりのための身体活動・運動の実践に影響を及ぼす原因の解明と科学的根拠に基づく対策の推進のためのエビデンス創出

研究代表者名(所属機関名):澤田 亨(早稲田大学)

研究分担者名(所属機関名):岡 浩一朗(早稲田大学)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C)(23K09701)

研究課題名:革新的手法による勤労者の健康的かつ高い生産性を実現する職場内外の環境要因の解明

研究代表者名(所属機関名):Mohammad Javad Koohsari(北陸先端科学技術大学院大学)

 

研究費名:青森県立保健大学「論文発表推進特別支援助成金」

研究課題名:Association of State Happiness with Mortality: Evidence from a Prospective Cohort Study in Japan

研究代表者名(所属機関名):安永 明智(青森県立保健大学)