新しい歯周病治療薬を開発
国立大学法人新潟大学
更新日時:11月29日 10時30分

-炎症を抑えるマクロファージの誘導に注目-

2024年11月29日
新潟大学

 新潟大学大学院医歯学総合研究科歯周診断・再建学分野の中島麻由佳助教と多部田康一教授は、ハーバード大学との国際共同研究により、薬剤キャリア「cellular backpack(細胞性バックパック:BP)」を用いてマクロファージを抗炎症性に誘導することで歯周病の進行を抑制することを動物モデル実験で明らかにしました。本成果により、これまで臨床応用が困難だった歯周病に対する免疫調整薬の開発が促進されることが期待されます。

 本研究成果は、2024年11月23日、国際学術誌「Journal of Controlled Release」のオンライン版に掲載されました。

 

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102154/202411280774/_prw_OT1fl_Sj92xF1I.png

Ⅰ.研究の背景

 歯周病は、病原細菌への感染を主な原因とする疾患で、歯を支える組織(歯肉や歯槽骨)に炎症を引き起こします。進行すると歯の喪失に至る可能性があり、う蝕(虫歯)と並び、歯を失う2大要因となっています。歯周病治療の基本は病原細菌の除去にありますが、感染細菌量が少ないにも関わらず進行するケースや、急速な組織破壊を伴う難治性のケースでは、炎症の適切なコントロールが求められます。しかし、現在のところ、歯周病治療に応用可能な免疫調整薬は存在しておらず、その開発が期待されています。

 マクロファージは、歯周病変部の組織では数が少ないものの、炎症の調整において重要な役割を担う免疫細胞です。炎症を引き起こして一連の免疫応答を誘導する一方で、近年報告された抗炎症性マクロファージが炎症の収束や組織修復を促進することが明らかになりつつあります。

 本研究グループは、この抗炎症性マクロファージを効率的に誘導することで、歯周病における過剰な炎症を制御する新たな治療薬を提案しました。

 

Ⅱ.研究の概要と成果

 マクロファージはIL-4の刺激によって抗炎症性へと誘導されます。しかし、マクロファージが持つ貪食作用注2のため、IL-4をそのまま炎症組織に投与すると迅速にクリアランスされ、薬剤効果を持続させることが困難です。さらに、IL-4を含む生物学的製剤注3は非常に高価であり、通常の歯周病治療への応用には課題がありました。

 この課題を解決するため、ハーバード大学で開発されたBPを歯周病治療用に改良しました。BPはマイクロサイズ(1mmの1/1000サイズ)のディスク状の薬剤キャリアで、精密に設計されており、マクロファージの貪食作用を回避してその表面へ結合し続けることが可能です(図1)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411280774-O10-F4Jo95Ay

(図1)マクロファージと細胞表面に結合したBP

 

 本研究では、BPから徐放されるIL-4がマクロファージに作用することで、極めて少量のIL-4でマクロファージを効率的に抗炎症性へと誘導し、その性質を維持させることを確認しました(図2)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411280774-O8-q93b4504

(図2)BPから徐放された極めて少量のIL-4による抗炎症性マクロファージ誘導

 

 また、IL-4-BPを結合させたマクロファージを歯周病モデルマウスの歯肉に投与したところ、マクロファージが抗炎症性を維持し、実験的歯周病の進行を効果的に抑制することが明らかになりました(図3)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411280774-O9-76D67A4u

(図3)IL-4-BP結合マクロファージ投与による実験的歯周病の治療効果

 

 本研究は、新たな歯周病治療薬として、抗炎症性マクロファージを利用したアプローチが可能であることを示しており、将来的な臨床応用が期待されます。

 

Ⅲ.今後の展開

 今後は、BPとマクロファージの親和性を強化するなど、さらなるBPの改良を進めていきます。将来的には、BP単独投与によるマクロファージ操作技術の確立を目指し、患者が利用しやすい形での治療薬の実用化を目指します。

 

Ⅳ.研究成果の公表

 本研究成果は、2024年11月23日、国際学術誌「Journal of Controlled Release」のオンライン版に掲載されました。

【論文タイトル】Backpack-carrying macrophage immunotherapy for periodontitis

【著者】Mayuka Nakajima, Neha Kapate, John R Clegg, Mayumi Ikeda-Imafuku, Kyung Soo Park, Ninad Kumbhojkar, Vinny Chandran Suja, Supriya Prakash, Lily Li-Wen Wang, Koichi Tabeta, Samir Mitragotri

【doi】10.1016/j.jconrel.2024.11.037

 

Ⅴ.謝辞

 本研究は、⽂部科学省科学研究費助成事業(基盤 B・23K27769)および上原記念生命科学財団の支援を受けて行われました。

 

【用語解説】

(注1)貪食作用:異物などを免疫細胞が取り込んで分解するプロセス

(注2)生物学的製剤:生物由来の成分や生物学的プロセスを用いて製造された医薬品

(注3)徐放:薬剤をゆっくりと時間をかけて放出すること